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第265話
「おい、そこで何してんだ」
男の低い声に恐怖したことはない。だが、今この時ばかりは怖いと思った。ギュ、ギュ、と靴裏が擦れる音が近づいてくる。ガクガクと身体が震えるのに、固まったように動かない。どうしよう、どうすれば、と焦るばかりで頭は一向に良案を出してくれなかった。ポタリと額から汗がつたう。それが抱きしめた子供のつむじに落ちて、凪はハッとした。
(そう、そうだ。この子を守らないと)
ヒバリがあちらに向かった以上、ここにいる大人は、この子供を守ってあげられるのは、自分だけ。自分が恐怖に慄いていたら、この子さえも危険に晒す。
それでも良い。自分には関係ない――――いいや、そんなことは言えない。言えない。
「だいじょうぶ」
子供を安心させるように、自らを奮い立たせるように凪は囁く。そしてギュッと力強く子供をだきしめながら振り返った。
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