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第266話
およそ十歩の距離にいる、一人の大男。凪からすればディーディア人は総じて大きいが、おそらくはそんなディーディア人の中でも頭ひとつは抜ける大きさだろう。その身長に見合うだけの筋肉もついていて、そこにいるだけで威圧感を覚える。手には何も持っていないようだが、太腿には拳銃があるのが見えた。あれは凪が持っている物とは違い、きっと銃弾が装填されていることだろう。
「鍵が開いてて逃げてきたのか? にしてもおかしいな。鍵が開いてようがこいつらは動けねえはずなんだが」
凪に問いかけているというよりは自分の頭を整理するためにブツブツと呟いているようだった。しかし呟きながらも男は一歩一歩と近づいてくる。走って襲いかかってくるようなことはないが、そのゆったりとした歩みが逆に凪を追い詰めるようだった。
この廊下は一本道。左右に扉はあるものの、そこに入れば正しく袋の鼠だ。そして凪には、この大男の横を走り抜けて奥へと逃げるだけの技量も力も速さもない。凪に残されているのは、この男の目の前で背にある玄関へと繋がる扉を開き、ヒバリが言ったように外を目指すことだけ。男に見つかっている時点でそっと隠れながら外へ出るという策は使えない。ならば、誰の目を集めようと走り抜けるしかない。
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