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第268話 ※
痛い表現あり。ご注意ください。
「ぁ……、な、なん……」
猛烈な熱さが身体を駆け抜ける中、男の震えた声が耳に届いた。先程まで怒声がうるさかったというのに、今はシンと静まり返っている。どうしたのだろうと、なぜか驚くほど冷静な自分が首を傾げる。ポタ、ポタ、と生暖かい何かが手に降り注いで、凪はボンヤリとしながら顔を上げた。そしてその光景に目を見開く。
「なんで、とは? 殺すことなんて、別に初めてじゃないはずだろ?」
男の手首を掴んでいたヒバリが微笑む。そこに先程までのトロンとした瞳はなく、しっかりと男の目を捕らえていた。
ポタリ、ポタリと落ちるそれは、真っ赤な色をしている。見ればヒバリの背から赤く染まった鋼の切先が覗いていた。
「あぁ、それとも、こうして肉を貫くのは初めてだったか?」
口端から赤を流しながら笑うヒバリの言う通り、男が握っていたナイフはヒバリの薄い身体を貫いていた。元々ディーディア人が持つナイフは凪が思うナイフとは違い少し刃が長い。筋肉質な人間ならともかく、身体の薄いヒバリであれば貫くことはできるのだ。
ポタリ、ポタリと赤が落ちる。ヒバリが男の手を持って自らを貫いたのだろうその刃先から、ポタリ、ポタリと命が落ちていく。
悲鳴さえ出ない。凪は目の前の光景が信じられなかった。
なぜ、どうして。そればかりが頭をグルグルと回る。おそらくは男達も同じだったのだろう。時が止まる中で、ただ一人ヒバリだけが皮肉げに笑っていた。
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