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第272話

(いや、大丈夫だ。報告によればナギが撃たれたのは足で、ヒバリ殿の方が重症のはず。彼の声が聞こえるなら、まだ手遅れではない)  冷静になれ、とサーミフは深く息を吐く。その様子をチラと見たウォルメン閣下がポンポンとサーミフの背を軽く叩いた。 「ここに我々がいるとヒバリが気づいた。注意を引いて時間稼ぎをしてくれるだろうから、焦らず、迅速に鍵を壊してくれ」  ヒバリは拳銃やナイフといった武器を持っていない。仮に持っていたとしても、怪我をした凪と無力な子供を庇ってどうにかできるはずもない。下手をすれば凪と子供の命が危うくなる。深淵の王と呼ばれるウォルメン閣下の側近くに侍る彼がその程度のことを理解できないはずもなく、ゆえに持てる全てでサーミフらの動きを助けてくれるというのだろう。 〈だが、よーく見ろ。俺の心臓から、何が流れている?〉  声が聞こえる。己の血を見ろと。と。同じ声が聞こえたのだろう、ディーディア兵たちの動きがほんの少し大胆になる。  カチャ、と鍵が壊れたほんの僅かな音はヒバリの声にかき消された。  ようやくひとつ。

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