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第274話

 隣で銃を構える音がする。サーミフもまた銃を構えた。目配せをして、兵の一人が扉に手をかける。 〈化け物と呼ぶなら、お望み通り喰ってやろうか?〉  その声が合図であるかのように、兵は勢いよく扉を開いた。一斉に雪崩れ込み呆然と立ち尽くしている男達に銃口を向ける。その中でゆったりと前に出た閣下と共に室内に足を踏み入れた瞬間、サーミフは思わず息を呑んだ。 「その必要はないよ。もう時間稼ぎは必要ないからね」  近くにいるはずの閣下の声がいやに遠くに聞こえる。力が抜けたかのように片膝をついたサーミフは、無意識の内に手を伸ばした。  床に倒れた、その姿。何が起こったのか、自分の状況すら把握できていないかのように、ただひたすらヒバリを見つめ困惑した顔を見せる凪にどうしようもなく胸が騒めいて、その小さくて細い身体を抱き寄せる。その時、彼の腕が幼子を抱いていることに気づいた。 (守ろうとしたのか? そのために、このような――)  視線の先には、真っ赤な血溜まりがあった。その中心に横たわる足に力は入っていない。  ヒバリの胸を刺したまま呆然とする男、そして同じように恐怖に震える男達の手にある拳銃、抱かれた小さな子供、血溜まりに沈む凪の足。何があったのか、容易に想像できるそれらにサーミフは歯を食いしばった。 「捕縛せよ」  声だけで人を殺すことができるなら、あるいは呪いをかけることができるなら、それはきっとこんな声なのだろうと思うほど憎しみに満ちた低い命令がサーミフの口から放たれる。よほどヒバリの血を見たことが衝撃だったのか、なんの抵抗を見せることもできず、ただ困惑して意味のない言葉を零し兵に囲まれるばかりだった男たちが次々に捕縛され、その手から武器を奪われる。三階から侵入した兵士達も合流し、場は一気に騒然となった。その様子を見ながらサーミフは懐から手巾を取り出し、侍従長に差し出した。その意図を明確に理解した侍従長が凪の足元へ向かい、手巾でキツくキツく縛り上げる。「うッ……」と小さな呻き声を上げた凪は、しかしその瞳を閉ざしていた。

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