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第276話

「殿下、準備が整いました。すぐに病院へ」  駆け寄った小隊長がサーミフを促す。その声にハッとして、サーミフは凪の足に気を遣いながら慎重に立ち上がった。そしてようやくウォルメン閣下の方へ視線を向ける。国を考えるなら、あるいは人であるなら、国賓の最愛であり、おそらくは一番重症を負っているだろうヒバリを何よりも真っ先に気に掛けるべきであるというのに、今の今まで彼らの存在が頭から抜け落ちていたことに気づき、サーミフは愕然とした。しかしそんなことを言っていられるだけの余裕も猶予もなく、サーミフは不規則になる己の心臓を無視して彼らに近づいた。 「閣下、すぐに病院へ走りますので、ヒバリ殿も一緒に」  その声と共に幾人かの兵が担架を持って前に出た。閣下に抱き寄せられてあまり見えないが、ヒバリの胸には今もナイフが突き刺さっている。背中から覗く切先に早く抜いてやりたいと思うが、今ここで抜いてしまえば今以上に血が流れることだろう。それがわかっている閣下もナイフには決して触ろうとはしない。しかし、どう見ても確実に心臓を貫かれているというのに、苦笑こそしているものの焦った様子もない閣下の姿も、服も床も真っ赤になるほど血を溢しているというのに未だ意識があり立ち続けているヒバリも、辺りを警戒しつつも見守るに徹している執事やティゼットも、何もかもがサーミフの目には異様に映った。

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