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第277話

「すまないね。ではお願いしようか。あぁ、担架はいいよ。私が運ぶからね」  サーミフの胸の内など当然知る由もない閣下は場違いなほど鷹揚に頷き、傷に障らないようにだろう、幼子を抱くようにヒバリを縦にヒョイと抱き上げた。先導する兵に促されるまま足を進めた閣下に、サーミフもまた凪を抱いて車へ向かう。急遽怪我人のために整えたのだろう車内に閣下が乗るのを見届けて、サーミフもまた凪の足に障らぬよう慎重に乗り込んだ。  静かに車が走り出してしばらくした時、「ごめんなさい」と小さくか細い声がぽつりと零された。凪は未だ目を覚ましておらず、呻き声すらない。ならば残るは一人と、サーミフはヒバリに視線を向ける。彼は相変わらず閣下の膝の上でその胸にもたれかかるようにして抱かれており、瞼は半分ほど伏せられている。閣下の持つ手巾で拭われたのだろう、少し赤みの残る唇はもう一度「ごめんなさい」と呟いた。 「謝ることなんて何もないよ」  ごめんなさい、と繰り返すヒバリに閣下は苦笑してそう言った。その言葉にサーミフは内心驚く。彼はヒバリをとても大切に思っていたはずだ。まさに掌中の珠、大切な籠の鳥。サーミフはヒバリの現状を知った時、閣下は烈火の如く怒り狂うだろうと思っていた。国も道理も関係なく、すべてを滅さんとするだろうと。しかし視線の先にいる閣下は苦笑こそしているもののヒバリにも他にも怒りを抱いているようには見えない。ただひたすらに優しく、ヒバリを抱きしめながらその赤を拭っているだけだ。

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