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第280話
慣れてしまった香りを感じながら、凪は浮上する意識に身を任せてゆっくりと瞼を開いた。ひとつ、ふたつと瞬きをして、ここが見慣れているようで見慣れていない部屋だということに気づく。
鼻腔をくすぐるのは、よく知る香だ。清廉で、しかしどこかほんの少しだけ甘いそれはサーミフの部屋でよく香っている。
今は横に纏められているカーテンも、品よく配置された調度品も、凪のよく知っているものだ。だが見慣れないと最初に思ったのは、それらがあるのはサーミフが主に使っている主寝室ではなく、その隣にある主のいない寝室だったからだろう。
つまり、自分は本来ならサーミフの妻のために用意されている寝室に寝かされているということか?
それを理解した瞬間、凪はバッと起き上がった――否、起きあがろうとした。
勢いよく身体を動かした瞬間、ズキッッとなんとも形容し難い痛みが身体を駆け巡り、ほんのわずか浮いた身体はそのままベッドに倒れた。
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