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第281話

「――ッッッ」  ドク、ドクと、まるでそこに心臓があるかのように足が脈打っている。痛いという言葉では足りない何かが溢れて無意識に手が伸びた。しかしほんの僅か身体を動かしただけでも激痛が走り、その手は掴むどころか足に届きすらしない。倒れ伏した体勢のまま歯を食いしばり震えることしかできなかった。荒い吐息は熱くて、自然と涙がこぼれそうになる。カサついたその唇が無意識に呼んだ時、カタン、と小さな物音がした。 「ナギ! 目が覚めていたのか」  わずかも動けない凪は顔を向けることもできなかったが、その声だけで誰かなどすぐにわかる。慌てて駆け寄る足音が二つあるから、きっと声の主であるサーミフと、いつも側にいる侍従長だろう。 「動いては傷に障る。無理をするな」  声と共に大きな手が凪の肩に回される。未だズキズキと痛む身体が、まるで赤子を相手にするかのような軽さで抱き上げられ、そっとベッドに横たえられた。足元も綺麗に整えられ、柔らかな掛布が胸元まで上げられる。汗で張り付いた髪を除けるように、大きな手が凪の額に触れた。冷たいその手にホッと息をつく。 「まだ熱が高いな」  それはそうだろうと凪はボンヤリと思う。この燃えるような熱さはついぞ経験したことがない。高熱が出る病にかかった時も、これよりは幾分がマシであったのだ。あの時も人間とはこれほどに熱を出しても生きられるのかと朦朧とする意識の中で思ったものだが、まさかその上を自身で体験することになるとは思ってもみなかった。

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