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第283話
普段は記憶力が悪いというのに、こんな時ばかりは覚えている。ボンヤリとした視界に、それでも映った、赤く染まったヒバリの姿。
あのナイフは、ヒバリの左胸を貫いていた。刃が埋め込まれたそこは、中央に近い左――つまり心臓の上だったように思う。
己の手に降り注いだ真っ赤なそれに、答えは絶望的だと凪は理解している。だが聞かずにはおれなかった。だって、あの時、ヒバリはどう見ても――、
「生きておられる」
どんどんと思い出して震える凪の思考を遮るようにサーミフの声が響いた。その言葉にハッとして凪は勢いよくサーミフを見つめる。
「ほんとうに? 本当に生きておられるのですか?」
縋るような声音になっていると凪は気づいているのだろうか。そんなことを思いながら、サーミフは凪の頭に刻みつけるよう、ゆっくりと頷いた。
「閣下いわく、もう意識も戻っているし、傷も塞がっているらしい。療養させるために調査に関してはこれで終わりとするが、身体的にはいつもと変わらないから問題はない、だそうだ」
そんなことがあり得るのか? と安堵した頭でふと凪は疑問に思う。
片やナイフが胸に突き刺さり、片や足を銃弾が貫いた。どちらも命の危険があったとはいえ、凪の記憶通りそのナイフが心臓を貫いていたのだとしたら、病院にも間に合わず即死の可能性が濃厚だったはずなのだが、身体的にはいつもと変わらないとはどういう意味だろう。足を撃たれた凪は今、起き上がることさえできないというのに。
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