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第286話

 罪がないなんて言えない。そう瞼を伏せる凪に、サーミフは小さく息をついた。ピクリと凪の肩が跳ねる。 「……お前が、母親のことを大切に思っているのは知っていた。ゆえに、あの噂が真実であれ偽りであれ、お前は看過できないと考えていた。何か行動を起こすだろうと。その方法が私の予想していたものの一つだった。ただそれだけだ。予想していたのだから、驚くことも失望することもない。私にとってそれは問題ではない。たとえどれほどお前が無謀なことをしようと、他に方法があっただろうと思おうとな。お前が人である以上、機械のようにすべてを合理的に動くなど不可能だ。知りたいのはそこではない。私が知りたいのは――」 「私がヒバリ様と繋がっていたか、ですよね?」  言うべきか、と凪が眠っていた間ずっと考えていたその問いを、まさかサーミフが言う前に彼が口にするとは思っていなかった。ほんのわずかに目を見開いてサーミフは凪を見る。それを受け止めた凪はただ静かに淡い笑みを浮かべていた。 「気づいていたのか。いつから――」  凪にヒバリと共に調査するよう命じた時か。それとも凪の報告に矛盾を感じて探るように問いかけた時か。あるいは、ツバキとヒバリが密通しているという噂が流れた時か。  いつだろうかとサーミフは考えを巡らせる。その様子に、ふ、と吐息のような力無い笑いをこぼして、凪は瞼を閉じた。 「私の元で引き取りましょう。そう、殿下が言われた時から」  静かに告げられた答えにサーミフは今度こそ大きく目を見開いた。 〝私の元で引き取りましょう〟  その言葉には覚えがある。父が異国の女を夫人として娶ると言った時、王族として迎え入れることも、王族ではないのだからと放り出すこともできない、宙に浮いた子供に他でもないサーミフがそう言った。確かに、監視するとの意思を心の奥底に抱いて。

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