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第292話
「ナギを側に置いたのは確かにそんな曖昧な、お前からすれば理由にもならぬことだった。だが、夫人は毎年何度か必ずヒバリ殿に手紙を書いて送っていた。〝望月 椿〟の名でな」
ヒュッ、と息を呑む音が聞こえた。それに構わずサーミフは続ける。
「ナギ、お前は私が贋金を最初に発見したのはどこだと思う? 答えは田舎の宝石商だ。王宮に住まう夫人がたくさんの宝石をあしらった首飾りを注文してくれたと店主は大はしゃぎしたそうだが、そこの息子が訝しがって近衛にいる友人に手紙を書き、その話が私の元へ届いた。結果、首飾りの代金として得たのは何の価値もないただの紙切れだったというわけだ」
国王に愛される夫人は沢山いる。そんな逃げ道を、しかし凪は掴むことはできなかった。
今ここでサーミフが話した。それだけで充分すぎる。
しかし凪の苦しみは、ここでは終わらなかった。
「事が起こった以上、調べねばならない。相手を油断させるため、私はこれらを口外せぬよう命じた。だがそんな手間も必要ないほど、出所はあっさりとわかった。ディーディア国内ではない。遥か遠く、兎都の国。そこにある白亜の宮殿と呼ばれた、貴族の屋敷だ」
白亜の宮殿。その言葉にもう限界まで開かれていたはずの凪の瞳が更に見開かれる。
まさか……。
「そこで作られた贋金は宝石の代金として使われ、さらには安価な武器弾薬の購入にも使われた。そのすべての契約書に書かれていた名前は何だと思う?」
ゆっくりと、サーミフが凪に視線を向ける。
「これらは、本当にただの偶然だと思うか?」
その問いかけに、あぁ、と凪はゆっくりと瞼を伏せた。きっと、サーミフの答えは〝思わない〟だったのだろう。
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