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第307話
「これを飲んだ者は、その時の記憶を失います。そして恐ろしいことに他者の言葉を簡単に信じてしまう。疑うこともありません。現にナギは霧状のこれを吸い込んだことにより、記憶の混濁がみられます。薄めた霧状のものでそうなのです。原液ならばもっと効果を発揮するでしょう。ですから、この原液が夫人の手元にあり、服用していたという証言がある以上、お渡しした契約書と夫人の証言が食い違うことは十分にありえる、ということです。兎都の使者は飲み物にこれを混ぜるなどして夫人に含ませ、言葉巧みにサインをさせた。そしてその時の記憶は夫人の中に残らない。言葉にすれば杜撰もいいところではある策ですが、これを知ったとしても多くの者が夢物語だと一笑して終わりでしょう。誰もそれを本気にはしない。私も、ウォルメン閣下が証拠を元にこの話をしなければ信じなかったでしょう。しかし、結果は出ました。ディーディアの研究員たちは〝この液体には確かに記憶の削除と言葉を信じ込ませるといった特殊な作用がある〟と結論を出しました」
夫人はこれを飲めばぐっすりと眠れると言った。しかし実際は夫人が〝眠っている〟と思っていた間、操り人形になっていたにすぎない。そしてその記憶は夫人の中に残らず、全てが終わった後にベッドで目覚めれば、夢さえも見ずに寝ていたのだと錯覚してもおかしくはないだろう。
都合の良すぎる、御伽話のような水。だがそれは実際に存在してしまった。
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