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第311話
おそらくは意図的にだろう、大きな窓から暖かな光が差し込み、灯などつけずとも十分に明るい回廊を進む。ディーディアの宮殿もそうだが、王族貴族が住まう屋敷ではよく絵画や花瓶などが品よく飾られているものだが、この屋敷にその類はいっさい見当たらない。閣下か、あるいはヒバリがそういった類を好まない性格なのかとボンヤリ思っていれば、先導していた執事が真白な扉の前で立ち止まった。
「旦那様、サーミフ殿下がお越しです」
執事が告げる声を聞いて、何となく小さな笑いが込み上げる。こんな風に自分の来訪を告げる声を宮殿以外で聞くのはどれほどぶりだろう。
どうぞ、とくぐもった声が中から聞こえ、執事が扉を開く。促され、サーミフは一人で中に入った。正面に置かれたソファに座ったウォルメン閣下が振り返る。彼の側にはよく見かける執事とポリーヌの姿があった。
「ようこそ。すぐに招くべきところを、待たせてしまってすまなかったね」
全くすまないと思っていないような声音でそう言った閣下は、ゆっくりと手を傾けてソファへ促した。淡く柔らかな光に包まれた室内によく似合う真白なソファに腰掛けて、サーミフはようやく閣下が立ち上がりもしなかった理由を知る。
「あぁ、こんな格好ですまない。夢現とはいえヒバリが起きてしまったからね、寝かしつけていたところだったんだ」
その言葉の通り、閣下の腕には柔らかな毛布に包まれたヒバリが穏やかに瞼を閉じて眠っていた。閣下の言葉を疑っていたわけではないが、胸にナイフが突き刺さっていた姿を見ているだけに、ヒバリが穏やかな呼吸を繰り返しているのを見てサーミフは知らずホッと息をつく。
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