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第312話
「バイロン、こちらは良いからヒバリのことを頼むよ。ポリーヌはティゼットと共にヒバリの側に。何かあったらすぐに報告してくれ」
おやすみ可愛い子、と囁いて、ウォルメン閣下はヒバリの額に口付けると側に控えていた執事――バイロンにヒバリを渡した。しっかりとヒバリを抱いたバイロンがポリーヌを伴って出ていく。同時に先程サーミフを先導した執事が入ってきた。無駄のない動きでサーミフと閣下の前に紅茶を置き、菓子をいくつか並べて下がる。そして室内にはサーミフと閣下の二人だけとなった。
「お心遣いに感謝を」
サーミフが一人で入室した意味を閣下は理解してくれたのだろう。そのことに感謝すれば、閣下はティーカップをゆっくりと手にしながら小さく微笑んだ。
「今回のことは完全にとまではいかずとも、私情が多分に含まれていたものだったからね。あぁ、もちろん私のだよ? だから、そうだね。あまり君が気にする必要はない」
例えその結果、ヒバリが長く閣下の側を離れることになろうと、その胸にナイフが突き立てられようと、それはサーミフのせいではないという。そしてそれは閣下の私情なのだとも。
「……責められる覚悟で来ました。以前も閣下は私欲で動いていると仰ったが、それはヒバリ殿にあのようなことが起こっていなかったからだと。あと少し遅ければ……いえ、ヒバリ殿が助かったのは奇跡としか言いようがない」
ナイフの突き立った位置も、その出血量も、死んでなんらおかしくないものだった。始まりは確かに閣下やヒバリの私情だったのかもしれない。サーミフに思惑があったとはいえ、それに手を貸すと言ったことも。しかし、それとこれは別だ。まして事はディーディアで起こり、凪に巻き込まれる形でヒバリが捕まったのだとすれば、サーミフに責任がないわけではないし、閣下やヒバリはサーミフを――ディーディア王室を責める権利がある。それは甘んじて受け止めなければならないものだと思っていただけに、閣下の言葉は拍子抜けを通り越して理解不能だった。しかしそんなサーミフを見て閣下は苦笑する。
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