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第320話
「……これは?」
どこをどう見ても、これはただのガラス玉だった。繊細な細工が施されているわけでも、特殊な輝きを放つわけでもない、どこにでもあるような、安価で手に入るガラス玉。砕けたのなら捨ててしまっても問題はないだろうに、わざわざ歪であっても修繕させたもの。見極めるように目を細めたサーミフをよそに、閣下は慈しむような眼差しをガラス玉に向けた。そっと、その滑らかさを失った表面を指で撫でる。
「そうだね……、言うなれば私の罪の証、かな」
罪。
随分と物騒な言葉が聞こえて、サーミフは顔を上げた。問いかけるような視線に気づき、閣下は小さく笑う。それがどうにも悲しげで、痛ましかった。
「全てを話すと長くなるから要点だけ言うとね、私は昔、このガラス玉を〝ヒバリ〟にあげたことがあるんだ。あぁ、もちろんこんなヒビは一つも入っていないガラス玉だよ? 当時色々あってね、ヒバリは完璧でないといけないと思っていたんだ。ずっと、幸せになりたい子だったんだよ。そしてその幸せは、何一つ失敗しなければ得られると、あの子はずっと信じていたんだ」
一つも失敗せず、完璧であれ。そうすればきっと幸せになれる。多くのことに怯えることなく、誰か一人でも良い、心から愛されると。
「でもね、そんなことは不可能なんだよ。なぜならヒバリの言う失敗とは百人いたら百人すべての意に添い、完璧にその期待に応えられなければ失敗なんだ。確かに失敗かもしれないが、そんなことを言っていたらこの世に生きる全ての人間は幸せにはなれない。百人が百人とも同じ性格なわけがないし、求める物だって違う。真反対の要求をする者だって当然いるだろう。不可能なんだ。だが〝ヒバリ〟はそれを求め続けた。でもそんな生き方は苦しいだろう? だから私はこのガラス玉を渡したんだよ」
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