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第323話

「事情を知らないというのにヒバリを思ってくれた凪殿には感謝しよう。あの時に君が知れば余計な詮索を受けただろうし、それをどうにかできるほどヒバリにも余裕はなかったからね。けれど私の口からちゃんと説明する形であれば、知られて困るようなことでもないから、凪殿への誤解を解く方を優先しよう」  ヒバリのことだけを考えるなら、サーミフが事情を知ったところで何の問題もない。彼はヒバリの主人ではないし、決してヒバリの庇護者になることもない。ありていに言えば、ヒバリの人生の中で重要な相手ではないのだから。 「さて、私達ができるおせっかいはここまでだ。もう望月家は取り押さえているのだろうし、我々にできることは何もないからね。数日後にはヒバリを連れてセランネに帰るよ」  閣下ができることは何もないと言うからには、彼の支配する地ではもう贋金を使っていた物達は一人残らず捕まったのだろう。ヒバリと離れている間に手を打たない御仁ではない。ならば本当に、ここからはディーディアの問題だ。 「ご協力に感謝します。それから、ヒバリ殿を傷つけてしまったことに今一度謝罪申し上げます」  サーミフの目に、ヒバリは自分の手でナイフを胸に突き刺したように映った。おそらくそれは真実なのだろう。けれど助力を願った身で何もしないというわけにはいかない。頭を下げたサーミフに、フッと閣下は小さく笑った。 「謝罪など不要だよ。君はヒバリが危険な目に遭うことさえ想定済みだったはずだ。その想定通りになった。それだけのことだよ。むしろ喜んだら良い。おかげで君が思っていたよりも随分とはやく事が片付きそうだろう? ヒバリはもちろん、私も危険を承知で君の願いに頷いたんだ。文句を言うような格好の悪いことはしないさ。先程も言った通り、我々には我々の私情があったのでね。だから君も、君の思惑を貫き通せば良い。王族貴族のわかりやすい〝形〟など受け取る気にもならない」  あぁ、紅茶がすっかり冷めてしまったね、と閣下が呟いた時、カチャ、と小さな音がした。思わず振り返れば、ほんのわずかに開いた扉の隙間からヒバリが顔を出している。寝起きなのだろう、その瞳は半分ほどしか開いていなかった。

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