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第324話
「セオ……」
名を呼びながら、ヒバリは真っ直ぐに閣下の元へと足を進めた。その瞳にはサーミフの姿などわずかも映っていないのだろう。閣下も気にする様子はなく、そっと両手を広げてヒバリを迎え入れた。
「まだ眠っていて良かったんだよ? しばらくは仕事もしなくて良いし、私も側にいるのだから」
まだ寝足りないだろうと宥める閣下であったが、抱きしめられたヒバリはイヤイヤ、と幼子のように閣下の胸元で首を横に振った。
「ふふふ、じゃぁ一緒にご飯でも食べようか」
睡眠も大事だけれど、ご飯も大事だからね、と囁く。するとヒバリは顔を上げて閣下の瞳を見つめた。
「セオのオムライスが良い」
お願い、とヒバリはグッと上体を伸ばしてセオドールの唇に己のそれを重ねた。羽が触れるような軽い、おままごとのような口付け。だがなぜか、その光景が、言葉が、サーミフの脳裏に焼けつく。
「良いよ。今から作るから、少し時間はかかってしまうけれどね」
一般的に見れば小さな、しかし人に傅かれることが当たり前の人間からすれば少し面倒なお願いにも閣下は躊躇うことなく頷く。そしてゆっくりとヒバリを抱きしめたまま立ち上がった。
「では私はこれで失礼するよ。先程も言ったが、凪殿がヒバリを気遣ってくれたことには本当に感謝している。私の方でも解毒の方法は調べてみよう」
言って、閣下は静かに踵を返した。
(恩には報いを、か)
立ち上がり、その背が見えなくなるまでサーミフは静かに頭を下げ続けた。
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