325 / 336

第325話

 捕らえた者達から一度は話を聞きたいところではあるが、今はまだ残党がいないかなどの尋問を行なっているようだから邪魔はできない。そう思ったサーミフはどこへ寄ることもなく真っ直ぐに宮殿へ帰った。とはいえ、閣下の屋敷は宮殿から少し離れたところにあり、帰った時にはすでに夕食の時間が迫ろうとしていた。凪の立場と性格上、食事をしているのであれば終わった頃に様子を見に行く方が良いだろうかと考えながら回廊を歩く。いつもであれば殿下、殿下と何も事情を知らない美女達が姿を見せるなり囲うようにして寄ってくるのだが、今は笑っていられるだけの余裕もないのだと察した侍従長たちが徹底した人払いをしているため思考が遮断されることはない。それを幸いにあれこれと考えながら私室に入ろうとした時、殿下、と小さな声がサーミフを呼んだ。 「……殿下。私です」  声の方にサーミフが振り返る。柱の影に隠れるようにして、夜着であろう薄布の上から厚手のショールを纏ったツバキ第三夫人が顔を覗かせた。途端、サーミフの眉間に皺が寄る。 「王の夫人ともあろう方が、そのような格好で成人した男の前に立つのはいかがなものか」  ここ一帯はサーミフの支配下とはいえ、どこに目があるとも限らない。夫人はもちろん、サーミフも危険に晒す行為だ。そしてその矛先は凪にもナイーマにも向かうだろう。サーミフの叱責に自身も理解していたのか、夫人は静かに俯く。しかしその場を離れる様子はなかった。その姿に小さくため息がこぼれ落ちる。

ともだちにシェアしよう!