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第326話

「……何用でしょう。あなたは今、ナイーマと共に父から部屋での療養を命じられているのでは?」  流石にサーミフが閣下を訪っていた時間で診察は終わっているだろうが、そもそも現時点で誰も解毒剤の作り方を知らないのだ。すでに存在していたとしても、今のディーディアには無い。そんな状態で愛しい夫人と可愛い娘をベッドから出すことはないだろうと、サーミフは報告を受けた時の父王を思い出していた。そしてその予想は当たっていたのだろう、ピクリと夫人の肩が小さく跳ねる。 「処罰は謹んでお受けいたします。しかし、休んでいろと申されても、私にはできません。殿下、あの……、凪は? 凪は、無事なのですか?」  夫人は凪にあの薬を渡した記憶はない。だが、その記憶もまた信用できないものになった。何より、国王に報告したサーミフは確かに、凪がその薬を薄めた霧を吸って記憶の混濁が見られると言った。  兎都の者にとっては、命を削る毒。それを知れば平静などではいられない。 「あの子は診察を受けましたか? 身体は? 命に別状は無いのでしょうか?」  あの時、国王は夫人とナイーマの診察を医師に命じた。そこに凪は含まれていなかった。他にも被害者がいるのであればサーミフの性格上診察を受けさせていないわけは無いだろうが、それでも確証がなければ安心できない。このままでは心配で休むこともままならないと、わかるまでここを動く気は無いと訴える夫人に、サーミフは小さくため息をついた。 「ナギは私の信頼している医者に診てもらっています。記憶の混濁がみられるのは本当ですが、今すぐ命が失われるといったことはありません。現在、私が知る限りではありますが解毒剤は存在しません。しかし諦めているわけでもありません。これから文献をあたってみます。協力してくださる方々もいますから、希望が全く無いわけではありません」  絶対、と言い切ることはできない。だが見捨てることはないと言うサーミフに夫人はようやくホッと息をついた。身体から力が抜け、思わず柱に手をつく。

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