329 / 336
第329話
「このままでは一家破滅どころか、何も知らない凪までもが罪に問われてしまう。貴族の位も、何もかも、凪の命と平穏には変えられません。だから、逃げて、逃げて、逃げて。なのに、結局私があの子を危険に巻き込んでしまった」
そうとは、今の今になるまで気付かずに。
「逃げたつもりでいただけで、結局、逃げられてなどいなかった。そうでしょう? 殿下」
贋金の件も、あの薬の件も、そうとは知らず望月家は関わっている。確信の籠った瞳に、サーミフは静かに頷いた。その瞬間、夫人の瞳から涙が一筋こぼれ落ちる。
「……やはり、そうでしたか」
逃げたと、逃げられたと思っていたのはツバキだけだったのかもしれない。このディーディアに来て、夫人となって、宮殿に住まう自分に近づく者は限られてくる。もはや自分に仇なすはディーディアの国王を軽んじるも同じ。兎都にいる望月を利用しようとしていた者も、そこまで愚かではないはずだと。
けれど、そんな子供でもわかりそうなことさえ瑣末なことにしてしまえるほどに、彼らにとってあの薬は都合よく、お伽話のような、魔法のようなものだった。
でもきっと、今でも望月にいるだろう彼らは事の全容を把握できていないだろう。何がいけなかったのかさえ、きっとわかっていない。疑うことを知らぬ、甘い人だったから。
「殿下、伏してお願い申し上げます。本当に、凪は何一つとして知りません。関わりがあるのだとすればその身に流れる血のみ。それを、罪だと言われますか?」
凪にはどうしようもできないことだ。生まれを、その身に流れる血を無かったことにはできない。けれどツバキは一度だって凪に望月の闇は話さなかった。常に微笑み、何も無い温かな平穏だけを見せてきた。凪は今回の件に望月が関係していることはもちろん、父親の甘さも知らない。知られないようにしてきたのだ。
ともだちにシェアしよう!

