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第330話

 夫人は深く、深く頭を垂れる。その姿に、サーミフはそっとため息をついた。 〝可愛いサーミフ〟  耳の奥に、懐かしい声が蘇る。 「……いいえ。ディーディアの司法が裁くのは本人のみ。たとえ誰にどんな血が流れていようと関わりのないこと」  それが血の繋がった親子であっても、関係のないこと。そう断言するサーミフに、夫人はホッと小さく息をつく。だがサーミフは残酷な言葉を続けた。 「しかし、今のあなたと同じように、ナギもまた私に懇願しました。すべての罪を自分が背負うから、母は許してくださいと」  ピクリと夫人の肩が跳ねる。嘘だとは、言えなかった。それは夫人が知る凪の言いそうなことだったから。  けれど、でも、 「駄目よ……、そんな……、駄目、そんなのはダメ……」  ポツリ、ポツリと無意識に繰り返す。  母親の代わりに凪が罪を背負う? そんなこと、許されるはずがない。  駄目だ、と夫人は顔を上げサーミフを見上げた。 「殿下! 凪の言葉はお捨て置きください! 本当に凪は何も知らないのです。凪は、凪には関わりのないこと。罪の無い子に罪を背負わせて断罪するなど許されるはずがありませんッ!」  違う、あの子は関係ない!  叫んで、叫んで、縋るように夫人は何度も額を床に擦り付ける。その姿は夫人ではなく、ただ一人の母親のものだった。 〝あなたは私の宝物よ、サーミフ。あなたのためなら、お母様は何だってできる。ふふふ、嘘だと思うでしょ? でも、本当なのよ〟  違うはずなのに、重なって聞こえる、その声。  あの人は、優しい手をしていた。

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