331 / 336

第331話

「殿下ッ!」  我が子を助けて。そう願う母親を、サーミフはそっと見つめる。ゆっくりと瞼を閉ざした。 「……ディーディアは決して大国ではないが、それなりに豊かな国だ。そのディーディアにやってきて、国王の目に留まり、寵愛され、娘も生まれ、誰もが羨む暮らしと地位を手に入れた。今この時にあっても、その立場は微塵も揺らがないだろう。私が何を糾弾したところで、国王が全力で守るはずだ。あなたは、すべてを手に入れた。――それでも、あなたはナギの母親なのですね」  切り捨てようと思えば、容易く切り捨てられただろう。あの薬は毒だと告げた時の父王の様子を見れば想像に難くない。それでも今、夫人は床に這いつくばって許しを乞うのだ。自分の許しではなく、息子の許しを。 「殿下……」  サーミフが凪いだような、思いを押し込めているような、そんな瞳をしているのを見て、ようやく夫人はサーミフが今まで自分たちをどう思っていたかを察した。

ともだちにシェアしよう!