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第333話

 贋金の件が公になろうと、夫人が狙われていようと、宮殿には澱みなく穏やかな時間が流れる。それが表に見せるべき姿で、内情はどうであれ揺らいではならない。それを面倒だと思いつつも、守るものを考えればそれもまた必要なことと理解しているから、気は進まないでもサーミフは夕食を摂り、食後の執務を終えた。そして大凡の者たちが公を忘れてゆったりと過ごすであろう時間になると、ゆっくりと立ち上がる。そして唯一私室に繋がっている妃のための部屋へと向かった。 「ナギ、起きているか?」  本来であれば子供以外は皆が起きているであろう時間ではあるが、凪はいま傷を治すために多種の薬を投与されている。その副作用で寝ていることもあるだろうと小声で問いかけてみたが、予想に反して凪はすぐにサーミフの方へと顔を向けた。 「殿下。起きております」  王子の前だからと無理矢理に身体を起こそうとする凪をサーミフは慌てて近寄り押し留めた。 「まだ無理に動いては傷に障る。そのままで良い」  そっと肩を押してベッドに戻す。凪は居心地悪そうにしていたが、銃で貫かれた足がたかだか数日で治るわけもないのだから無理は禁物だ。 「……先程、ウォルメン閣下の所へ行ってきた。少しだけだが、ヒバリ殿にもお会いした。すでにご自分の足で歩いておられたのをこの目で見たから、閣下が我々に優しい嘘をつかれたわけでもないと確定した。安心せよ」  詳細は告げない。それでも凪はホッとしたように小さく息をついた。あの夥しい血を流していながらどうやって生きながらえたのかと疑問は尽きないだろうが、凪はそれを深く追求することはなかった。生きている、その事実だけがあれば良い。 「殿下のお心に感謝を」  サーミフ自身にも話すべきことがあったのだろう。けれどその訪問には僅かであっても凪がヒバリのことを気にしているからという理由も含まれていたはず。そう思って凪は首を垂れた。その姿をジッと見て、サーミフは静かに瞼を伏せる。立ち上がり、そして凪の横たわるベッドの側で、彼は流れるように膝をついた。

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