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第334話

「――ッッ!?」  一国の王子が、たかだか使用人に――それも失態を犯した使用人に膝をつき、頭を下げた。その光景はとても信じられるものではなく、否、信じてはいけないもので、凪は咄嗟に身体を起こそうとする。しかしそれはサーミフの上げた手に止められた。彼の手は僅かも凪に触れていないというのに、凪はピクリとも身体を動かすことができない。  呑まれる。まさにそれこそが正しい表現だろう。 「世の中には王族たる者、過ちがあろうと決して頭を下げてはならないという者がいる。それを否定する気はない。だが、私は人として、頭を下げねばならぬ時があると思っている。今が、その時だろう」  普段であれば、サーミフもそう軽々と頭を下げるようなことはしない。それはサーミフ自身の矜持ではなく、この国の王子であるがゆえだ。だが、サーミフは今、頭を下げた。 〝サーミフ〟  耳の奥で、声が聞こえる。 「ナギは、疑うのが私の役目だと言ってくれたな。私も、そう自負している。今回の件は疑って然るべきだった」 「もちろんです。ならッ――」 「だが、私は知っている。それが建前で、本心は認めたく無かっただけなのだと。あの日から、ずっと」  勢い込んで否定しようとする凪を、サーミフの静かな声が遮った。ずっと、見ないふりをしていたもの。 〝サーミフ〟  見えないように、聞こえないように、完璧に封じ込められていたはずの、それ。 「私情を挟まなかったわけではない。否、これは私情ではないという言い訳を後から手に入れただけとも言える。ならば、王子ではなく、お前の主ではなく、一人の人間として、すべきことがある」  ずっと、疑ってきた。幼い子供を、疑ってきた。 「すまなかった」

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