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第336話

「殿下はきっと、ご自分を〝私情で疑い続けた冷血漢〟と思っていらっしゃるのでしょう。けれど、私にとっては違います。こうして私の頬に触れてくださる殿下の温もりは、今も昔も変わりません」  たとえそれが、偽りの姿だったとしても。凪を油断させるためのお芝居だったとしても。 「この温もりが、どれほど私の心を宥めてくれたことか」  あなたはきっと、もう忘れているだろう。そんなことをポツリと凪は思う。  この国に来て初めて熱を出した時、独り寝ている自分を見舞いに来てくれたことを。誰もが自分を放っておく中で、水を用意し、何度も何度もタオルを絞っては額を冷やしてくれたことを。  現実を受け入れられず泣いていた時、取り繕うこともできなかった自分を、それでも見ないふりしてくれたことを。  ふとした時に与えられた、その手の温もりを。 「私には、殿下のお心を変える術は持ちません。権利もない。けれど同じように、私が殿下にいただいた一つ一つを覚えている理由を否定する権利は、私以外に持ち得ない。そうではありませんか?」  偽りかどうかなんて関係ない。だって凪は最初から知っていたのだから。知っていて、それでも覚えている理由が、凪には確かにあるのだ。

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