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第338話
「でも、それでも」
忘れていたほうが良い。今更なにを思ったところで過去は変えられない。煩わされるだけだ。わかっている。結局は捕らわれているのだと。それでも、
「それでも、いただいた恩は、忘れません」
あなたへの恩も、ヒバリ様への恩も。
真っ直ぐに、ただひたすらそう告げる凪の瞳にサーミフは息を呑んだ。とんだ綺麗事だというのに、笑い飛ばせないほど純粋で。
「……なぜ」
ポツリと、こぼれ落ちる。
「嫌だったというのなら、それは恩にはならないはずだ。だというのに、なぜ……」
なぜ、そんなにも大切そうな顔をする。
「おっしゃる通りです、殿下。気持ちは、偽れません。嫌だったと、今でも思っています。でも、他に道があったのかと大人になった頭で考えても、未だその答えには辿り着けません。私が嫌った選択で、今まで無事に私が生かされている」
雨風に怯えることなく屋根のある場所で眠り、空腹に怯えることなく、乾けば喉を潤し、凍えれば暖を取る手段が幾つもある。苦しむ母を見ることもなく、母子揃って無惨に死ぬこともない。ヒバリがここに連れてきたから、サーミフが凪をも受け入れたから、母が選択したから、凪は今でも生きている。
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