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第339話

「あの時ああしていれば良かった。こうしていたら良かった。幾つも思い浮かぶものですが、そのどれもが綺麗事で苦しい側面を見ないふりしているにすぎないものばかりです。現実的ではないし、実行に移せばきっと〝こんなはずじゃなかった〟と嘆くでしょう。それがわかりきっている。そんな無駄な妄想を何度したことか。でも、ある時ふと思ったのです」  何度も何度も、考えずにはいられなかった。過去は変えられないと自分に言い聞かせるのに、頭は勝手にこうしていれば、ああしていればと妄想を繰り広げる。それを繰り返しながら歳を重ね、そして気付いた。 「守られることしかできなかった私は、何の力も無かったのだと」  妄想が繰り広げる世界は、まるで自分が何でもできる超人のようだった。自分だけではない、母も、何でもできた。運も味方し、順風満帆! ――ディーディアの言葉もおぼつかない状態で、夢想も良いところだ。 「殿下が私に本を与え、教師をつけてくれたから、今ではディーディアの言葉を話せます。けれど、もしも宮殿に来なければ、どうやって言葉を覚えたかもわかりませんし、覚えるまでこの身が生きていたかどうかもわかりません。母とて、同じことが言えるでしょう。なにせ私たちは本当に、何も知らずにディーディアの地に足を踏み入れたのですから」  きっと、凪は幸運だったのだろう。それが凪にとって受け入れたくないものだったとしても。

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