344 / 354
第344話
「此度の件は簡単なものが入り混じって複雑になっている。すべてを知るにはまだ時間がかかるだろう。だが、事情を聞くことはあってもナギや第三夫人が疑われることはない。閣下もできる限りの協力はしてくださるそうだ。だから今は、何も心配せず休め。お前にはそれが許される」
あえて、サーミフは閣下が何に対して協力してくれるのかは言わなかった。解決方法が見つかっていない今、凪にあの毒の話をするのは愚策だろう。確かに凪も霧を吸っているのだ。当事者には間違いないが、それ以上に夫人は原液を幾度も摂取している。凪もそれは知っているのだから、あれが毒だったなどとわかれば療養どころの話ではない。きっと凪は自分の足がこの先二度と使い物にならなくなったとしても、母の元へ走るだろう。サーミフはそれをさせたくないのだ。
「使用人の部屋では気が休まらないだろうし、治療もしにくい。どうせここは誰も使っていないのだから、足が治るまで気にせず寛いでいろ」
今回の件は極秘にこそしてはいないものの、今後も公にするつもりのないものだ。公にしてしまえば、夫人をなぜ罪に問わないのかという疑問が膨れ上がり、誤魔化したところで以前のサーミフのようにずっと疑って探り出す者も出てくるだろう。それで真実に辿り着かれても困るが、出鱈目な予測をさも本当のことのように吹聴されるのも王室としては避けたいところである。かといって真実を告げるのはあまりに無謀だ。事が事だけに武力を使おうという者も出てくるだろうし、あの毒の存在が知られれば悪用しようという輩も数えきれないほど出てくるだろう。そうなれば兎都の者達が常に脅かされることとなる。
すべてを明らかにし、公に伝えれば良いというわけではないのだ。大義のため、平和のため、あるいは調和のために黙することとて必要になってくる。今回の件はまさしく〝黙する〟ものだろう。だが、そうなっては凪の怪我の説明が難しくなる。療養中の凪に嘘をつかせ続けるのも可哀想だ。そうなるくらいなら、サーミフがここに匿ってしまう方がどうとでもなる。元より、サーミフの私的空間は侍従長などの限られた者以外は普段から出入り禁止だ。いることを知られないようにはできないだろうが、誰彼構わぬ接触は防げるだろう。
ともだちにシェアしよう!

