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第346話

〝サーミフ、あなたは賢い子だわ〟  そう言ったあの人は、幼きサーミフの髪をゆったりと撫でながら笑った。 〝あなたは賢いから、わかってしまうのよね。国民が、王室が、周りの人々があなたに求めているものを。だからあなたはいつだって完璧だわ。まさしく多くの人が望む第二王子よ〟  出来が良く、しかし兄たる王太子を上回ることはない。それを卑屈に思わず、弛まぬ努力をし、王太子を敬って出しゃばることはせず支えようとする。鷹揚に構え、些細なことに怒らず、慈悲深く、しかし厳格で正確。誰が見ても、どう見ても、完璧な二番目の王子。そうであるように生きてきた己の姿を、流石にあの人は見抜いていた。 〝あなたのそんなところも私は好きよ。でもねサーミフ、お母様は少し寂しく思うの。あなたが、いつか本当のあなたを殺してしまうんじゃないかって〟  サーミフが完璧であればあるほど、あの人は誇らしく、そして安堵してくれるだろうと思っていた。なのに寂しく思うと言われ、勢いよく顔を上げたのを今でも覚えている。  あの日、自分を見下ろすあの人の瞳は、ほんの少し潤んでいた。 〝サーミフ。私の可愛い子。あなたの献身と真心を嬉しく思わなかったことはないわ。あなたは私に子供たちが穏やかに微笑み合う姿を見せてくれたし、私に非難がくるようなことは何ひとつとしてしなかったもの。でもねサーミフ。お母様は願っているわ。あなたが、一日の内でほんの一刻でもいい。あなたらしくあれる時間を過ごせる誰かと出会えることを。あなたが、あなたの幸せを見つけることを〟  王子であるあなたが、ただのサーミフに戻れるその時間を。 〝サーミフ、諦めたりしないで。求め続けて欲しいの。ねぇサーミフ、私の可愛い子。あなたがあの絵本にハッピーエンドを刻む時を、私は願い続けるわ〟  もしかしたら、あの人は何か予感していたのだろうか。悲しそうに瞳を揺らめかせて、何度も何度も、願っていると呟いた。  最期の時でさえも。

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