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第348話
母――、その言葉にサーミフは視線を上げる。侍従長へ向けようとして、思いとどまった。
きっと今、自分は何か物言いたげに瞳を揺らしているだろうから。
「支度が済んだら、ナギの様子を見に行こう」
何事もなかったかのようにサーミフは立ち上がる。彼の考えを理解したのだろう、もともとあまり出しゃばることのない侍従長は静かにサーミフに近づき、かつて凪がやっていたように支度を手伝った。
凪に仕事を教えたのは侍従長だ。凪は真面目で、それらの動きを忠実に再現している。だから手伝う人間が変わっただけで、その動きなどに変化は無いはずだ。しかしどこか違和感を覚えている自分に、サーミフは嘲笑した。何を今更。
「殿下、昨夜に報告が上がってまいりました。尋問もあらかた終わったので、獄舎にお通しできると。いかがなさいますか?」
髪を櫛で整えながら報告する侍従長に、サーミフはチラと瞳を動かした。
「では今日中に行くとしよう。彼らには聞きたいことが山程ある」
王子という立場は時に厄介だ。無碍にしてはいけないから、サーミフが赴くだけで接待したり案内をつけたりとてんやわんやになる。しかしサーミフが重視するのは速さ。ゆえに審問の邪魔をせぬようあらかた終わってから捕まえた者たちと話がしたいとだけ伝えていたのだが、ようやくその時が来たようだ。
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