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第349話

 朝食を軽く摂り、そのまま凪のいる部屋へと向かう。正妃のための部屋であるのでサーミフの私室から直接赴くことができ、誰とも顔を合わせることがないのは非常に楽だ。人々の視線も、甘い声も、己の立場を理解しているからこそ許容しているが、サーミフ自身はあまり好きではない。疲れた、と思うこともある。 〝サーミフ〟  この宮殿の端に位置する空間は、そんなサーミフの性格を理解していた母からのプレゼントのようなものだった。 「ナギ、私だ」  軽くノックをして声をかける。しかし中から応えはなく、静かに近づく足音だけが聞こえた。ゆっくりと目の前の扉が開く。薄く開けられたそこにはいつも通り無愛想な顔をした医師がいた。 「ナギ殿は眠っています。近寄っても起きないでしょうから、顔を見ていかれるのでしたらご自由に」  どうぞ、とさらに大きく扉を開いた医師はサーミフの返事を聞くことなくサッサと踵を返して奥へ向かった。それに小さく笑いながら、サーミフもまた奥へ向かう。侍従長は扉の前で待つようだ。 「いつもなら私が近寄ると起きるんですがね。今日はピクリとも動きません。薬を新しくしたわけでもないのですが……、まぁ、何事においても睡眠は大切。呼吸も穏やかです」  そう言った医師の視線は観察するように凪へ向けられている。サーミフも視線を向ければ、なるほど、特に声を潜めているわけでもないというのに凪が目を覚す兆しは見えない。すー、すー、と深く規則正しい寝息がこぼれ落ちるだけだ。

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