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第355話
「腹を満たすためには食いもんが必要だ。けど、パンひとつ買うのにも金がかかる。病気になっちまったら医者に行けって他人は言うが、医者だってタダじゃねぇ。水だって金を払わなきゃ水道を捻ったって出てこねぇんだよ。んじゃぁ、どうやって金を手にいれる? あくせく働いたって微々たるもんだ。もっと稼ごうとすれば休憩や寝る時間を削るしかねぇが、そんなんしてたら身体が先にガタがきちまう。そこまでして俺ら庶民がどれだけを稼げるか、お前は本当にわかってんのかよ」
腹が減れば何か食べれば良い。確かにその通りだ。
病は専門家に診てもらった方が早く治る。その通りだ。
身体が辛いなら少し休んで、ちゃんと寝た方がいい。人間は寝ないといけないのだから。
あぁ、 確かにその通りだとも!
けれどそれらに幾らかかるというのだろう。辛いからといって休んでしまえば、その間はほんの僅かでさえ稼ぐことができない。――生きることが、できない。
「なぁ、王子サマ。あんたは知ってるか? 必死になって稼いだってのに、これは高いから買えねぇって〝たかが〟食材ひとつひとつの値段を計算しては諦めて、病院に行きゃぁ治療も薬も出してもらえんのに、〝たかが〟その時間と金を考えて諦める虚しさをよぉ」
始まりは、握りしめた一枚の札だった。それだけを、握りしめていた。
「確かにこの国は豊かだよ。他の国に比べれば平民の暮らしだってマシなもんなんだろう。でもな、少なくとも俺とお前は等しく人間だが、まったく平等なんかじゃねぇんだよ」
なぁ、王子サマ。
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