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第359話
「さっき言ったことを、訂正するつもりはねぇ。俺にとっちゃ全部が本音だ。けど、一般的にあんたが現実に生きる為政者なら、あの人は理想の中に生きる為政者なんだろうよ」
志は立派で、美しい。悪意のないお伽話の世界でなら、ただただ素晴らしくあれたであろう人。けれど現実はそんなに綺麗ではないし、悪意を持たない者が一人もいない世界は存在しない。
「望月当主の本音がどこにあるかなんて知らねぇが、俺からしたらあの人は理想だけを見た人間だ。その耳で本当のことを聞いておきながら、その目で大量の銃や弾丸を見ておきながら、それが理想の世界にそぐわねぇものなら容易く消え失せる。理想的な理由を掲げられたら疑いもせずに納得しちまう。だが、その行動のすべては自分の利益のためじゃない。誰かの幸せのためだ。あの人はきっと今でも信じてるだろうよ」
騙しているという罪悪感からか、あるいは理想だけで生きる無垢さに哀れみを抱いたからか、男は饒舌に話した。その一つ一つをサーミフは胸に留める。
「では望月当主はあの毒がツバキ殿に贈られていることは知っていたのだろうか。効能を知ることなく」
かつての妻に毒を盛っていたと、気づくこともなく。
「知っていたな。断言しても良い。だが、それが妻のためにできることだと疑っていなかったことも、断言しよう」
流石の望月も法的機関から送られてきた離婚証明書の意味を理解できないわけではなかった。だが彼は恨むこともない。ただひたすらに、彼女と息子の幸せを願っていた。
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