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第367話

 ナイーマが何を望んでいるのか、改めて言われずとも凪は知っていた。決して贅沢でも我儘でもないその願いを抱くのは、悪いことではない。むしろ純粋であるがゆえに、当たり前のように思えた。拒絶する必要も、本当なら存在しない。  周りの目があるというなら、それを避けて兄になってあげることはできた。どちらも自分の子供だと言って憚らない母ならば、お願いした瞬間に人目を気にしなくて良い場を作ってくれただろう。あるいはナイーマにわかるように兄であると意思を日頃から滲ませることだってできたはずだ。  彼女が望むことなんて、そう大層なものじゃない。いくらだってやりようはあった。だが、凪はそれをしなかった。――できなかった。それは今も変わらないのだと自分で察して、そっと瞼を閉じる。 (ごめんね……)  自分の我儘が、この幼い子供の心を傷つけている。  わかっている。  わかって、いる。 「あのね、お兄様。今日はね、お母様がね――」  キラキラと瞳を輝かせながらナイーマは言う。その声に隠れるように、カチャ、と小さな音がした。 「そこで何をしている」  聞き慣れた、しかしどこか聞き慣れぬ低い声に凪は瞼を開いて視線を向ける。ナイーマも勢いよく振り返った。

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