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第368話

「殿下……」  無意識に凪の唇がサーミフを呼ぶ。それにチラと視線を向けながら、サーミフは異母妹にもう一度、何をしているのかと問いかけた。ナイーマは視線を彷徨わせる。 「あ、あの、これは、だって……」  幼いナイーマであっても、ここがサーミフの――王子の私的空間であることは理解している。そこは例え親兄弟であろうと許可なく足を踏み入れてはならないという暗黙のルールも。  怒られる、とナイーマは唇を噛む。縋るように凪の手を握った。ピクリと、凪の指が跳ねる。 「お、お母様と、お茶をするの。だから、だからね、お兄様も、一緒にって思って、探しにきたの」  だって、ナイーマはお母様の娘だけど、お兄様だってお母様の子だもの。  だから。  だから――。 「ここなら、いると思って……」  真っ直ぐで、純粋。汚れなどひとつもない、その言葉。  清すぎて、息ができない。  ハクリと、喘ぐように凪の唇が震えた。 「そうか。だがナギが今、お前たちと一緒に茶などできないとわかるな?」  ベッドに横たわったままの凪を見て、先程ナイーマも病気なのかと問いかけた。それゆえに反論できず、ナイーマは頭が取れてしまいそうなほど顔を俯け、コクリと頷く。それにひとつ頷いて、サーミフは後ろに控えていた侍従長を振り返った。彼も心得たように頷き、手に持っていた銀のトレーをテーブルに置くと、静かにナイーマに近づく。 「お部屋までお送りいたしましょう」  膝をつき、そう侍従長は告げる。ナイーマとてサーミフが来てしまった以上、ここにはいられないとわかっていた。それがサーミフの狭量ゆえではなく、当たり前のことなのだとも。けれどナイーマの足は動かなかった。離したくないというようにギュッと凪の手を握る。

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