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第376話

 ずっと、側にいた。その姿を見て、世話をするのが自分の役目。側にいた長い年月は、自然と凪に全てを伝えてくる。  今、凪が桃を食べたことにサーミフは心の底からホッとしているのだと。  だから、今は。今だけは、 「ありがとうございます」  使用人としての失態を、謝ることはしないでおこう。  使用人としては、何もかもが間違っているかもしれない。だが、凪はこれが正解なのだと思う。  サーミフのことをすべて知っているとは言えない。きっと知らないことの方が多い。それはサーミフとて同じだろう。そんな主従じゃなかった。  けれど、これだけは、きっと間違いじゃない。 「とても美味しい桃です」  もう一つ、桃を口に含む。素直に口元に浮かんだそれに、サーミフが目尻を和らげたのがわかった。 「きょうは なにがしたい?」  おともだちが くるとき、おうじさまは いつも さいしょに そう いいます。  けれど おともだちは いつだって 「おうじさまが したいことが したいです」  と いいます。  だから いつだって おうじさまが きょうは これをしよう、あれをしよう と きめて いました。  そんな あるとき、おうじさまは きゅうでんで おともだちの ひとりを みつけました。  おともだちは おうじさまの しらない こどもと おしゃべりを していて、おうじさまには きづいていません。  こえを かけようか まよっていたら、なにか おもしろい おはなしでも していたのでしょう、  おともだちは こどもと いっしょに わらっていました。  その えがおを みて、おうじさまは びっくりします。  おともだちは いつも きれいな えがおを みせていました。  しかし いま、おうじさまの めに うつっている かれは、たいようのように かがやく えがおを みせているのです。  このとき はじめて、おうじさまは おともだちが いつも つくった えがおを じぶんにみせているのだと きづきました。  ひとつに きづくと、つぎつぎに きづいて しまうものです。  おうじさまは おともだちが みんな、ほんとうの えがおを おうじさまに みせたことがないと きづいて しまいました。  おとなたちに いわれたから、いっしょに いるだけ。  おにわで はしりまわった ときも、てあそびを したときも、おべんきょうを したときも、たのしかったのは おうじさま だけでした。  おうじさまは かれらを おともだちだと おもっていました。  けれど かれらは そうでは なかったのです。  おうじさまは こっそりと なきました。その なみだは だれも みていません。  だって おうじさまは、なんでも もっている おうじさまでなくては ならないからです。  つぎに かれらが きたとき、おうじさまは えがおを みせました。  いっしょに あそんで、じかんが きたら おわかれ。  いつもとおりの こうけいに なるように、おうじさまは どりょくしました。  おともだちに なることを、おうじさまは あきらめました。  あのときから、おうじさまに おともだちは いません。  いいえ、きっと さいしょから いなかったのです。

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