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第378話
「毎日会っているから、あまり実感はないのですがね。それでも、一年は過ぎたでしょうか」
この部屋を訪れずとも、兄は王太子なのだから会議などでは顔を合わせる。それゆえにサーミフはわざわざこの部屋を訪れることはなかったし、逆もまた然りだ。もっとも、兄は人を連れて歩くのを好まず、隠れるようにしてフラフラと出歩くことが多いので、サーミフが気づいていないだけで近くにいた可能性は大いにあるが。
「もうそんなに経つか。いや、お互い大人になったのだから、これが当たり前だろうか」
いつかを思い出すように目を細めて、兄はポイと手近にあったクッションのひとつを投げてよこした。それを難なく受け止めて、サーミフも兄の近くに座る。
兄もサーミフも、見た目は父に似ているが、兄の瞳は母譲りだ。そこにほんの少し、懐かしさが過ぎる。だが、それだけだ。それだけになるくらいの年月が流れた。
「で? そんなお前がわざわざどうした? 今は暇だというわけではないだろう?」
王太子である兄はサーミフの領分を犯すようなことはしないが、内容は常に把握している。むしろ妻と娘のことで混乱している父王に代わり、最終的な報告を受けているのは兄だ。だからこそサーミフが今、暇どころか僅かの休息ですら惜しんでいる状況も理解している。常を装ってクッションに懐く兄であるが、その瞳は鋭い光を纏っていた。
「兄上に少し、お願いが」
願うサーミフに、兄は無言で続きを促す。
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