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第379話
「兎都の貴族たちに、噂を流せませんか? 例えば、ツバキ第三夫人が王子を出産した、とか」
兎都の国に手は出せない。出せないが、ほんの少しの抵抗はさせてもらう。その意思を宿したサーミフに、兄はフッ、と笑った。
「ならば〝国王はそれをたいそう喜んで、生まれたばかりの王子を王太子に据えるらしい〟と付け加えておこうか」
それはつまり、目の前の兄を王太子の座から退けるということだ。いくら本当のことではないとはいえ、サーミフはほんの少し眉根を寄せた。
「そんなこと、よろしいのですか?」
あなたの評価に関わるとサーミフは懸念するが、当の王太子は構わないと何でも無いことのように笑ってヒラヒラと手を振った。
「たかが噂だ。わかる人間にはわかるようにするし、そうであれば信じた者がバカだということになるだろう。出所もわからないように細工するさ」
こちらには何の不利益もないと王太子は笑う。それでは噂を流す意味がないのではと他者は思うかもしれないが、その程度で充分だろうという考えはサーミフも王太子も一致していた。
「では、お願いします。くれぐれも、兄上の不利益にはならぬように」
事件の早期解決も願うが、それで兄の立場を揺らがせるようなことがあってはならない。慎重にしてほしいとサーミフが願うのは、ひとえに兄を心配してのことだ。兄とてそれがわからないほど浅い付き合いなどしていない。だがわかっていて、彼は軽く大丈夫だと告げた。
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