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第382話

「そう、贖罪を……。いや、それすらも違うのかもしれない。私は解毒薬をあの子にあげて、自らの罪を消し去ってしまいたいのでしょうか」  兎都の者にとって、あれは毒。記憶を消し、寿命を奪う。解毒薬ができたとしても、失った記憶は戻ってはこない。でも、寿命なら……。その願いが消えない。 「足を治療し、毒を消し去って。それで、私や、この宮殿から解放してやる。それが私にできる贖罪。もしも私が己の罪を消し去ってしまいたいが故の思いだったとしても、やらないよりは余程良い。違いますか?」  サーミフはずっと、凪を疑い続けてきた。ツバキの息子で、過去にヒバリと接触していた兎都の貴族令息。たったそれだけの理由で。そしてそのことを凪も知っていた。ならば、彼がこの宮殿で過ごした長い年月は、それこそ地獄のようだっただろう。息をつく暇もない。安寧の場所にはなりえない。ならば――、 「それを彼が望むかは、我々にはわからないぞ」  ポツリと零されたそれに、サーミフはハッと瞼を上げる。視線の先にいる兄は、小さく微笑んでいた。 「何が苦しくて、何が救いかなど、他者に計れるものではあるまいよ。同時に、我々の苦しみもまた、誰かに推し量れるようなものではない。他者はもちろん、私の真の苦しみをお前が推し量ることはできぬし、お前の苦しみを私が推し量ることもできない」  あの日、胸を貫いた熱い刃を覚えている。  ある人は言うだろう。それが王子の宿命だと。  ある人は言うだろう。もっと苦しい境涯の人だっていると。  ある人は言うだろう。その程度、何が苦しいのかと。  だが、兄は、サーミフは、確かに鋭い刃で貫かれたのだ。そしてそれは今も抜けず、ジクジクと痛みを訴えている。

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