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第388話

「お前に偉そうなことを言ったが、いつだって感情を優先させてきたのは私だ。お前よりもよほど、優先させてきた。傷ついているだろうとわかっていて、なのにお前を抱きしめる腕すら、持てなかった」  母の最期に最も傷ついたのは、側にいたサーミフだっただろう。だが自分もまた傷ついていて、弟を気に掛ける余裕を持てなかった。抱きしめてやることも、兄として側にいてやることもできず、自らが悲しみゆえの殻に閉じこもってしまった。 「人ゆえに、それは当たり前のことでは? 兄上は、兄である前に、人です」  ほんの少し早く生まれただけだ。それだけで悲しみを押し殺せと、弟のために気丈であれとは言えないし、サーミフは言う気もない。兄もまた感情ある人なのだから。  しかし兄は、悲しそうに笑った。 「わかっているよ。きっと私もお前の立場なら、同じことを言っただろう。だがな、きっと私はそうあってやりたかったんだ」  悲しみを耐える弟を抱きしめてやりたかった。大丈夫だと言って守ってやりたかった。ほんの少しでも、その心を照らしてやりたかった。 「今でも、私は思っている。だからこそ、お前に後悔してほしくはない。それが私の自己満足だと言われればそれまでだが、それでも、願ってしまうものなのだ」  私の弟が、幸せたれと。 「そのためならば、何を惜しむものか」  兄である前に人。王太子である前に人。  だが決して消えはしない。消したくない。  自分は人であると同時に、この子の兄だ。 「……兄上、もしも、我儘を言って良いのであれば、どんな理由でもなくあなたの弟として、願っても?」  カチャリ、とサーミフが茶器を置く。静かに向けられた視線を、兄は真っ直ぐに見返した。 「いいよ。言ってごらん」

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