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第390話
声が聞こえる。くぐもっていて言葉は理解できないが、その声の高さと抑揚に、ナイーマであろうことはすぐにわかった。きっとまたサーミフのいない時間を見計らって凪に会いにきたのだろう。どうやら王族と側近の一部しか知らされていない秘密の通路を使っているようで、凪のいる部屋の前までは難なく来れるようであるが、あの日サーミフが早々に警備体制を見直したため、毎回扉の前で兵士に止められていた。きっと今もいつものように少しだけでいいからとお願いしているのだろう。しかしこの辺りに配置される兵はサーミフの忠実なる臣下だ。例え王女が相手であろうと、サーミフが許可しないと言えば梃子でも動きはしない。
「でも不思議ですね。扉の前まで来れるなら、直接この部屋に入ってきそうなんですが」
相変わらずの無表情で凪の足の包帯を取り替えていた医師がポツリと呟く。一見愛想がないように見えるが、彼は意外とそれなりに喋る方だと知ったのは、こうして自らが治療を受けるようになってからだ。
「流石に室内には入れないよう、鍵がかかっています。それは内側からしか解錠できないから、例え王女であろうと回廊に出るのが限度だったのかと」
それでも秘密の通路が何のためにあるのかを考えれば、ただ兄に会いたいという理由だけでそう幾度も幾度も使用するのは危機管理という意味でいかがなものかとは思うが、幼い彼女がサーミフはもちろん、父王や母に知られることなく兄の元へ辿り着ける最短にして唯一の手段だったのだろう。
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