408 / 421

第408話

「兄上からなら、ありがたくいただくとしよう。そこのテーブルに運んでくれ。あとはこちらでやるから下がってよい」  その命令に使用人の男は頷いてティーカートを部屋にある小ぶりなテーブルの側に動かした。そして室内に用意してあった車椅子をベッドの近くに移動させ、もう一度深くサーミフに頭を下げて退室する。パタンと扉が閉じられた時、サーミフは凪を抱き上げて車椅子に乗せた。 「動き回るだけが仕事ではない、とは言ったが、流石に自分の意思で動けないというのも苦痛だろう。簡易的ではあるが車椅子を用意したから、これを使うと良い。玄関には階段があるが、バルコニーからならスロープで庭にでることもできるし、二階にはエレベーターを使えばいい。何をしても構わないが、医師からの許可が出るまでは車椅子で移動しておけ。でないと後が面倒なことになる」  宮殿は伝統と格式を重んじなければならない場で、それゆえに不便と分かっていても近代的にできていない部分は大いにある。だがこの離宮はサーミフの母が過ごしやすさを重視した場所だ。現代の技術と専門家の知恵で部屋の段差などはほとんど無いし、エレベーターなども雰囲気を壊さぬよう自然な形で設置されている。扉も廊下も広々としているため、車椅子であったとしてもさほど動きが邪魔されることはないだろう。

ともだちにシェアしよう!