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第410話

「羨ましいかぎりです」  どうしても、凪はそうあれなかった。ナイーマに対しても、兎都に残してきた異母兄に対しても。 「ほぉ。こうでありたかったのか?」  頬杖をついて、サーミフが凪を見つめる。その問いかけにカチャリと用意していたカトラリーが音を立てた。  王太子とサーミフのようにありたかったのか。今度は自分で胸の内に問いかける。  どうだろう。羨ましいと言った先程の言葉は偽りでもおべっかでも無い。だが、そうでありたかったのかと言われれば、頷くことが正しいとも思えなかった。  異母兄はやんわり凪と距離をとっていた。そしてナイーマは凪から壁を作った。その結果は、凪が一番知っている。  サーミフらのようになりたかったのか。愛情を向けあえる仲に。  もう一度、問いかける。凪はフッ、と小さく嗤った。 「いいえ。きっと、そうあれる自分でありたかったのでしょう」  兄に敬愛を向け続ける弟として、妹を愛しめる兄として。きっと、凪が苦しいのは今ある結果ではない。そうであれなかった自分を、彼らに申し訳なく思うのだ。 「時折、思うのです。もしもここに立つのが自分ではなく他の誰かであったなら、今とは違う、もっと良い何かになっていたのではないかと」  それは誰もが――凪ですら一度は想像した、理想郷に。 「すみません。戯言を申しました。忘れて――」 「ありえないな」  主に対して何を言っているのやら、と凪が自嘲した瞬間、その言葉を遮るようにしてサーミフの声が凛と響いた。

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