421 / 421
第421話
寝起きのサーミフを襲うこともできた。食事や茶に毒を入れることも容易い。あるいは要人達に無礼な振る舞いをしてサーミフの権威を失墜させることもできただろう。なりふり構わず、己の命すら捨てる覚悟で挑めば、幾らでもやりようはある。なにせサーミフは湯浴みで裸という最も無防備な姿さえも凪に晒しているのだから。
サーミフが真実なにを思って凪をその位置につかせたのかは知らない。もしかしたら、やれるものならやってみろと、凪が実行に移した時にはそれみたことかと宮殿から凪やツバキを追い出せると思ったのかもしれない。あるいは、凪は自分の手の内だと示すことでツバキを牽制していたのかもしれない。わからないが、凪にとっては与えられた位置が嬉しかった。他者が己の仕事をしているかもしれないと考えるだけで、嫉妬を覚えるほどには。
「難儀ですね」
呆れたように医師は小さなため息をつく。きっとサーミフが凪を疑い続けていたことを、この医師は知っているのだろう。それを凪が知っているということにさえ。確かに医師の目から見れば、凪は難儀な性格をしている。
「そう、ですね。でも、だから、ごめんなさい」
ごめんなさい、と凪は幾度も幾度も医師に謝罪の言葉を紡いだ。何のことかと医師が眉根を寄せた時、凪は泣きそうなほど瞳を潤ませて唇をギュッと噛んだ。
ともだちにシェアしよう!

