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第431話

「ナギ殿が言ったように、私は職務上知っています。今回の件も、長年のことも。けれどだからこそ、今を不思議だとは思いません。もちろん殿下とて人間ですから罪悪感も持つでしょう。でも、それだけであなたに何もかもを許すような愚かはしませんよ。あの方は、一国の王子なのですから」  だからこそ、あなたの立つ場所が証明となる。 「…………」  与えられた言葉を、凪はひとつひとつ胸に収める。何を返してよいかわからなくて、凪は無意識に己の手を見つめた。  与えられた今、凪は何を持っている?  答えはもうすぐそこまで出かかっていると思うのに、何かが遮る。はくりと口を喘がせた凪に気づいたのだろうか、男はそういえば、と殊更明るい口調で言った。 「ナギ殿はご存知ですか? 殿下は見た目はお父君譲りなんですけどね、性格はお母君に似ておられるんです。王子ですから、一応義務とか色々あって宮殿のお部屋はあんな感じなんですけどね、本当はこの離宮みたいな空間がお好きなんですよ。ナギ殿がここを気に入られたのなら、案外感性は殿下もナギ殿も同じかもしれませんね」  言われて凪はこの離宮で過ごすサーミフの顔を思い出す。確かに、宮殿にいた頃よりもずっと穏やかな表情をしていることが多い気がする。  静かな回廊に、微かに香る花の甘い匂い。扉を開ければ澄んだ空気があふれ、ふわりと風がそよいでカーテンを揺らす。金も銀も見当たらない、柔らかで落ち着いた色に統一された壁紙や調度品。少しだけ広い部屋には小さな木のテーブルと揺り椅子があった。  なるほど、凪はこの離宮の空間をとても好ましく思っていたが、サーミフも同じであったのか。

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