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第434話
「まだ殿下は宮殿にいらっしゃる。私は少し物を取りに来ただけだ」
会議が長引いているのだと言う侍従長に、凪はホッとして思わず入っていた肩の力を抜いた。集中するあまりサーミフが帰ってきたという知らせを聞き逃したのかと焦った心臓は、未だバクバクと鳴り響いている。
「あの、侍従長。もしお時間があるのでしたらお聞きしたいのですが」
そっと覗ってくる凪に侍従長は首を傾げる。構わないと促せば、凪はその手に持っている絵本を差し出した。
「これをご存知ですか? 片付けようと思ったのですが、これは見たことがないので、どうしたら良いものかと」
ずっとサーミフの側にいた侍従長ならば知っているだろうと、ただそれだけの思いで凪は聞いた。いつものように、これはこのような対処をと簡潔に言って終わりだろうと。しかし予想に反して侍従長は長く絵本に視線を落とし、そして懐かしむような、あるいは悲しむような、あらゆるものが混ざったように目尻の皺を深くした。
「これはまた……」
そっと、侍従長は凪の手から絵本を受け取る。幾度も読んだのだろうことを思わせる荒れた縁を視線でなぞった。
「もう存在すらお忘れになったのかと思っていたが、大切にとっておられたのだな」
ゆっくりと瞼を閉じた侍従長は何を思ったのか、数拍の後に瞼を開くと静かに凪の方へ絵本を差し出した。反射的に受け取った凪は小首を傾げる。
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