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第435話

「え、っと……」 「どうするかはお前から殿下にお聞きしてくれ。きっと、その方が良い」  意図を読みきれず困惑する凪に、侍従長はそう言った。それは凪に言っているというよりも自分自身に言い含めているような響きで、凪は思わず侍従長を見上げる。彼は凪ではなく、凪が持つ絵本に視線を向けたまま、やはり懐かしいとも、悲しいとも取れる笑みを浮かべていた。 「これが今、お前の目に映った。それもまた運命なのだろう」  これはずっと前から、それこそ凪がディーディアに来る前からサーミフの手元にあった。サーミフの側近くで仕える凪は、いつ目にしていてもおかしくはなかっただろう。だが今の今まで知ることはなく、だというのに今この時に姿を見せた。  偶然。たまたま。多くの者はそう言うかもしれない。だが侍従長にとっては、多くの意味が込められているように感じられてならなかった。 「これは、何なのですか?」  この絵本に何があるのか。何もわからない凪は思わず眉間に皺を寄せてしまう。その様子を見て侍従長はチラと窓の外へ視線を向けると、開け放たれたそれをしっかりと閉めた。 「時間はある。少しお茶でも飲もう」  来なさい、と言って侍従長は踵を返す。幾度か瞬いていた凪はそれが先程の問いかけに応えるものだとようやく気づいて、慌てて絵本をテーブルの上にそっと置くと車椅子を押して侍従長を追いかけた。  この離宮にはもともと少人数しか使用人は連れてきていない。ゆえに部屋を一つ貸し切るのも、人払いをするのにも苦労はしなかった。綺麗に整えられているが誰も使っていない部屋の一つに入り、パタンと扉を閉める。それでは動きにくかろうと、侍従長は手ずから茶を二つ淹れた。 「ありがとうございます」  上司に茶を淹れさせたと凪は恐縮して身を縮こまらせるが、侍従長は気にもしていないのだろう、凪の対面に座ってのんびりと茶の香りを楽しんでいる。

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