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第447話
初めて宮殿に足を踏み入れた時から、そこは凪にとって戦場だった。使用人として部屋を与えられ、そこから一歩出ればヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。彼らが凪に向けるのは、嘲笑か、憐憫か、嫌悪か。どれであっても凪の心は休まらなかった。けれど母の側にいれば要らぬことをぶつけてしまいそうだったから、サーミフが引き取ると言ってくれたことには感謝していた――感謝していたが、それだけだった。
(殿下の母君は……)
そっと、テーブルに置いた絵本の表紙を指で撫でる。母が国王の亡き愛妻と容姿がそっくりだったから夫人として強く願われたのだということも、その亡くなった王妃が王太子やサーミフの母であったことも凪は知っていたが、殺されたことまでは知らなかった。おそらくは国外に宮殿の内情が漏れることを恐れて、王妃は病死であると徹底したのだろう。犯人が国王の娘であれば尚更だ。
(そうすればお母様が笑ってくれると思った、か……)
ただひたすらに、母親を思っての犯行。これまでのことを考えるに、サーミフはきっとその言葉も聞いているはずだ。ならば、彼はどんな思いで凪を引き取ると言ったのだろう。どんな思いで、凪を見ていたのか。口でなんと言おうとも母を切り捨てることのできない凪を。
小さくため息をついて、凪は絵本から視線を逸せる。その時、リン、チリン、と小さな鈴の音が離宮のあちこちで鳴り響いた。その音にハッと顔を上げる。サーミフが帰ってきたのだ。
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