470 / 477
第470話
「静かな場所がお好きな人だった。金や銀よりも白や水色。派手な香より花の香り。広々とした部屋は淋しく感じるから、本当はほんの少し狭く感じる程度の大きさが好きで、豪華な食事なんかいらないから少し小さなテーブルを子供達と囲んで食べたいと言う人」
そっと、サーミフは凪の髪を撫でる。
「確かにご自身の幸せをよく知っている――王妃には向かない性格の、小さな幸せの数々を喜ぶ方だった」
ほんの少しでも、傅かれることを喜ぶ人だったなら、その地位を守ろうと僅かでも周りを警戒してくれただろうか。そんなことをポツリと思う。けれど、あぁ、けれど、敬愛する我が母は、彼女であったからこそあれほどに美しく、あれほどに幸せそうな笑みを浮かべていたのだろう。
「聖母のような方、でしょうか」
慈しみ、愛する。清らかな人。だが凪の言葉にサーミフはクスリと笑った。
「いいや、聖母というには人間臭い方だ。懐に入れた者には厚すぎるほどの情を持ち、時に無鉄砲。口では仕方ないだの私は関係ないだの冷たく聞こえるようなことを言うのに、結局誰よりも真っ先に手を差し伸べる方。以前、この離宮に来る道中で犬を見つけて一時的に保護した時、寝る時間も惜しんで側にいては怖くない、大丈夫だよと声をかけておられた。数日後に飼い主が見つかった時は泣いておられて、犬のためにも帰してあげた方がいいとわかっているから口には出されなかったが、胸の内では嫌だ嫌だと駄々を捏ねておられた。父上が心配して新しい犬を飼おうかと言われたくらいには落ち込むような、そんな情の激しい方だった」
ともだちにシェアしよう!

